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名古屋高等裁判所 昭和50年(ネ)444号 判決

控訴人

若森はな子

右訴訟代理人

東浦菊夫

外一名

被控訴人

関信興株式会社

右代表者

吉田嘉美

主文

本件控訴を棄却する。

原判決主文第一項を「本件手形判決並びに仮執行の宣言を認可する。」と更正する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

被控訴人が現に別紙手形目録一、二記載の約束手形二通の所持人であること、もと第一審被告若森孝基が昭和五〇年二月二二日右手形目録一記載の手形を、同年三月一二日右手形目録二記載の手形を、それぞれ控訴人にあて振出し、控訴人は訴外大堀敏雄に、大堀敏雄は被控訴人に、それぞれ拒絶証書作成義務を免除して裏書譲渡し、被控訴人は右各手形を所持するに至つたところ、もと第一審被告若森孝基はすでに他の手形の不渡を出し、銀行取引停止処分を受けていたので、直ちに前記各手形を支払場所に呈示したところ、いずれも、「期日未到来、取引なし」の理由により支払を拒絶されたことは、当事者間に争いがない。

ところで、手形法七七条、四三条によれば、約束手形にあつては、所持人は、振出人の破産の場合、支払停止の場合又はその財産に対する強制執行が効を奏しなかつた場合には、満期前であつても裏書人にその遡求権を行使し得るものとされており、手形不渡による銀行取引停止処分は右にいう支払停止の場合に当たるものと解される。そして、同法七七条、四四条五項によれば、約束手形の振出人が支払停止をなし、又は振出人に対する強制執行が効を奏しない場合に、これを理由に満期前の遡求をしようとするには、所持人は一応支払のための呈示をなし、かつ拒絶証書を作成せしめることを要するものであり、拒絶証書の作成が免除されているときは、呈示のみで足り、この呈示は第三者方払いの記載のある場合でも振出人(住所又は営業所に)に対して呈示する必要があるが(満期前には振出人が支払担当者に資金を交付していることを期待し得ないからである)、それとは別に、支払停止、強制執行、破産(和議、会社更生、整理、特別清算も同様)の事実を執行調書の謄本とか債務者の支払停止についての回状などそれぞれ適当な証拠書類をもつて証明することが必要である(拒絶証書はこれらの事実を証明するものではない)。ただ破産の場合は、破産決定書をもつて足るとされており(手形法四四条六項)、この場合には、支払呈示および拒絶証書の作成は要しないものと解される(すなわち、支払停止や強制執行不奏効による振出人の支払無能力を確実に書面によつて証明するという実際上の必要に基づいて拒絶証書の作成を要するものとされているが、破産の場合は、破産決定書の提出だけで振出人の支払無能力についての完全な証明を提供できるからである)。

本件の場合、前記の事実によると、振出人であるもと第一番被告若森孝基が他の手形の不渡を出し、銀行取引停止処分を受けたので、前記の支払停止の場合に当たるものと解され、拒絶証書作成義務を免除されているので、所持人である被控訴人が満期前に遡求するためには、振出人に対して支払呈示をすることと銀行取引停止処分の事実を書面をもつて証明することを要するのである。

そこで、この二つの要件を充足しているかどうかについてみるに、被控訴人は、本件各手形所持人として、振出人である若森孝基、裏書人である控訴人に対し、本件手形支払の支払期日前である昭和五〇年四月一〇日岐阜地方裁判所に手形訴訟により手形金請求の訴を提起し、右訴状は同年四月一四日右両名の住所に送達され、銀行取引停止処分の事実は、右訴状の請求原因中に記載されておつて、右訴状の陳述によつて法廷で主張され、これに対し、第一審被告である若森孝基および控訴人の代理人は、原審第二回口頭弁論期日に同五〇年五月二七日付準備書面の陳述により、右事実を認め、その旨口頭弁論調書に記載されていることは、本件記録上明らかなところである。したがつて、銀行取引停止処分の事実の証明については、ことさらこれを必要とされるものとは解されない。

次に、右訴状の送達をもつて振出人に対する呈示があつたものとなし得るかとの点については、次の理由によりこれを肯定するのが相当と解される。すなわち、手形は呈示証券であり、所持人が手形金の支払を受けるためには、債務者に手形を呈示することを要する(手形法三八条一項、三四条一項、七七条一項二号三号)が、その支払呈示を必要とする理由は、手形は流通する性質を有し、しかもその流通は債務者の関知しないところであるから、債務者は誰が手形債権者か知り得ないことが多く、そこで債務者をして支払呈示によつて債権者を確知せしめる必要が生じてくる(二重払いの危険はむしろ手形の受戻証券性によつて避けられる)ものである。そして、本件の場合のように、満期前の遡求をするに際しては、振出人に呈示することによつて、所持人が誰であるかを確知せしめると同時に、手形金の請求をし、資金供与の機会を与える点に意味があると解される。このように解するとき、訴状の送達をもつて、遡求のため必要な振出人に対しての呈示があり、満期の到来により遅滞に付する効果を認めて差支えないものと解される。

以上によれば、控訴人は被控訴人に対し約束手形金合計金二〇〇万円および内金一〇〇万円に対する満期の翌日である昭和五〇年四月二六日から、内金一〇〇万円に対する同年五月七日から各支払ずみに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるから、これに符合する本件手形判決は認可すべきである。

以上の次第で、右と同旨の原判決は相当で本件控訴は理由がないから棄却し、仮執行の宣言につき、主文第二項のとおり原判決主文第一項を更正し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(植村秀三 西川豊長 寺本栄一)

(別紙)手形目録〈省略〉

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